ツール解説 · 比較

n8n AgentsとDifyのエージェント機能を比較する — どちらを選ぶか

PoCでDifyのAgentノードを触り、チャンク分割の設定値を調整しながら社内FAQボットの精度を上げてきた情シス担当者がいる。同じ頃、別の部署から「n8n Agentsを使えば、指示を平文で書くだけでSlack連携のエージェントが作れるらしい」という話が上がり、どちらを本番の自動化基盤に据えるべきか判断を求められる——というケースが増えてきた。

機能一覧を並べて比較しても、「結局どちらが自分たちの業務に合うか」は見えてこない。チャンク分割や検索パラメータまで自分で制御したいのか、それとも組み立てる手間を省いて早く動かしたいのかで、答えは変わる。n8n AgentsとDifyのエージェント機能は、どちらも「エージェントを作る」ための機能だが、出発点が違う。n8nは既存のノードベースのワークフローに「平文指示で動くプリビルド版」を追加した。Difyは元々、RAGとワークフローをノードエディタで細かく制御する設計のまま、Agent戦略とMCP対応を拡張してきた。この記事では比較の軸をそろえて、判断基準まで落とし込む。

この記事の比較対象
n8n Agents
n8n@2.41.1〜(2026-09-23リリースでデフォルト有効化)
Dify エージェント機能
Dify v1.17.1(2026-09-10時点の最新)、MCP対応はv1.6.0〜
比較軸
自由度・運用形態・ツール連携・運用管理の4軸
一次情報
n8n公式ブログ・Dify公式ドキュメント(本文末に掲載)

n8n Agentsの仕組み

n8n Agentsは2026年9月25日にn8nが発表した機能だ。従来のAI Agentノードは変更されていない。そのまま使い続けられる。n8n Agentsはその横に追加された、別の作り方だと考えればいい。目標を平文で書き、モデルとツールを選ぶだけで、メモリ・セッション管理・複数チャネル対応・バージョン管理・承認フローが標準で組み込まれた状態で動き出す。

📝
作り方
平文の指示のみ

役割・トーン・禁止事項・ツールの優先順位を自然言語で書く。フローチャートは組まない。

🔧
使えるツール
3系統

MCPサーバー/Slack・Google Sheetsなどのn8n標準ノード/既存のワークフローをそのまま資産として使える。

🗂️
標準装備
組み立て不要

メモリ・セッション管理・バージョン管理(ドラフト/公開)・機密ツール使用前の承認フローが最初から入っている。

💳
課金
1ターン=1実行

エージェントとの1往復が1実行。ツール呼び出しや子ワークフロー呼び出しに追加課金はない。

n8n Agentsの仕組みと導入前に判断すべき制約は、別記事「n8n Agentsで何が変わるか」でさらに詳しく整理した。この記事ではDifyとの比較に絞って進める。


Difyのエージェント機能の仕組み

Difyのエージェント機能は「Agent」ノード(またはAgentアプリ)として提供され、ワークフローの中の1ステップとして動く。n8n Agentsのように「平文で指示するだけ」ではなく、推論戦略・ツール・前後のノードを一つずつ設計する点がn8n Agentsとの最大の違いだ。

🧠
推論戦略
2種類から選ぶ

Function Calling(GPT-4・Claude 3.5系推奨)とReAct(関数呼び出し非対応モデル向け)を明示的に選択する。

🧩
ワークフロー組込み
ノードエディタで制御

Agentノードの前後に検索・分岐・変換ノードを自由に配置できる。チャンク分割や検索パラメータも個別に調整する。

🔌
MCP対応
v1.6.0〜・双方向

外部MCPサーバーをツールとして呼び出せるだけでなく、Difyのアプリ自体をMCPサーバーとして公開できる。

Difyのワークフロー設計とチャンク分割の実務設定値は「Difyで社内FAQを構築する」で解説した。RAG精度を自分の手で詰めたい場合、この制御粒度がそのまま強みになる。


4つの軸で比較する

設計思想の違いを、実務で判断材料になる4つの軸に分けて比較する。

🎛️
① ワークフロー構築の自由度
Difyはノード単位で検索・分岐・プロンプトを制御できる。n8n Agentsは平文指示に寄せ、内部の実行経路は固定グラフとして見えない。
Difyが広い
🖥️
② 運用形態
Difyは機密情報を扱うほどセルフホストに寄る。n8n AgentsはCloud先行提供で、セルフホストは追加セットアップが必要。
前提が逆
🔌
③ ツール連携範囲
どちらもMCPサーバーを呼び出せる。Difyはv1.6.0以降、自分自身をMCPサーバーとして公開する双方向対応まで持つ。
Difyが一歩先
✅
④ 運用管理機能
n8n Agentsはバージョン管理と承認フローが標準装備。Difyは会話ログは記録されるが、承認フロー相当は自分で設計する。
n8nが広い

④の「運用管理機能」が薄いことは、Difyが劣っているという意味ではない。Difyは個々の業務に合わせて運用設計すること自体を前提にしている。認証・ログ・コスト管理・役割分担をどう設計するかは「情シスがDifyを本番導入するときに整理しておくべき運用要件」で8項目に分けて整理した。n8n Agentsのように最初から承認フローが付いてくるわけではないので、この設計を省略すると運用後に穴が残る。


どちらを選ぶかの判断基準

CASE 1 — 精度・機密性を優先
Difyを選ぶ

RAGのチャンク分割や検索パラメータを細かく制御したい。機密情報の取り扱いをセルフホストで厳密に設計したい。この2点が優先なら、組み立ての手間をかけてもDifyのノードエディタの方が目的に合う。

CASE 2 — 速度・既存資産を優先
n8n Agentsを選ぶ

すでにn8nでワークフローを作り込んでいて、その資産を活かしつつ自然言語で素早くエージェント化したい。承認フローやバージョン管理を自分で組む余裕がないなら、標準装備のまま使える方が早い。

CASE 3 — 両方の要件がある
併用する

RAGはDifyで精度を詰め、通知や他システム連携はn8nで組む。n8nからDifyをAPI呼び出しする構成は「n8nとDifyを連携させる」で実装コード付きで解説した。


よくある失敗と対処法

① n8n Agentsに機密データを流す構成を作ってしまった

症状:MCPサーバーや外部チャネルの接続を先に組んでから、後になって業務データが社外サービスに渡っていることに気づく。

原因:「ツールを追加するだけ」の手軽さに引かれて、接続先ごとのデータの扱いを確認する手順を省いた。

対処:「社内の機密情報をAIに入力してはいけない理由」の判断基準で、接続先ごとに事前チェックする工程を導入前に挟む。

② Difyのチャンク設定を省略して精度が出ない

症状:FAQボットを作ったのに「なんとなく答えがズレる」状態が続く。

原因:Agent戦略の選定やチャンク分割・検索パラメータの調整を初期値のまま放置していた。Difyは制御できる分、設定を詰めないと精度が上がらない。

対処:チャンク分割の設定値は「Difyで社内FAQを構築する」の実務ガイドを先に当てる。

③ n8n Agentsの実行クォータを使い切る

症状:既存のスケジュール実行ワークフローが動かなくなり、原因調査に時間がかかる。

原因:エージェントの1ターン=1実行がワークフローと同じ実行数の枠を共有していることを知らず、既存ワークフローの枠を圧迫した。

対処:導入前に既存ワークフローの月間実行数を確認し、エージェント分の増加を試算してから有効化する。

④ Difyにも承認フローが標準で付くと誤解する

症状:本番公開後、誰が何をいつ変更したかを追跡する仕組みがないことに気づく。

原因:n8n Agentsのバージョン管理・承認フローと同じものがDifyにも標準で付くと思い込んでいた。

対処:「情シスがDifyを本番導入するときに整理しておくべき運用要件」の役割分担表を使い、変更管理の担当者とフローを先に決めておく。


まとめ:導入前チェックリスト

以下の項目を確認してから、どちらを使うか決定しよう。

  • RAGのチャンク分割・検索パラメータを自分で調整する必要があるか確認する
  • 機密情報をナレッジベースやツール接続経路に流す予定があるか確認する
  • 既存のn8nワークフロー資産をそのまま活かせるか確認する
  • 既存ワークフローの月間実行数とn8n Agentsのクォータ共有を試算する
  • MCPサーバー経由で接続する外部サービスごとにデータの扱いを確認する
  • 変更管理・承認フローを誰が設計し、誰が運用するかを決める
  • セルフホスト運用を選ぶ場合、認証・ログ・コスト管理の担当を決める
  • 精度優先かスピード優先か、チーム内で優先順位を一つに決める

✅ まとめ n8n AgentsとDifyのエージェント機能は、競合というより設計思想が違う道具だ。精度と機密性の制御を自分の手に残したいならDify、組み立てる手間を省いて既存資産を活かしたいならn8n Agents。どちらも中途半端に試すと、精度不足かクォータ超過かのどちらかで詰まる。優先順位を先に一つ決めてから着手した方が、PoCから本番までの距離が短くなる。


参考資料

📌 バージョン注記 本記事はn8n Agents発表時点(2026年9月25日・n8n@2.41.1)と、Dify v1.17.1(2026年9月10日リリース)の情報を基にしている。両ツールとも頻繁にアップデートされるため、機能範囲や課金の扱いは導入前に公式情報と照合してほしい。